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"BiographicalNote": "1947年、福岡県瀬高町(現みやま市)生まれ。京都大学経済学部卒。新聞記者を経て、2011年から2014年まで熊本県あさぎり町に単身移住し取材。共著に『知ってはならないパリ』(文芸社)『食卓の向こう側』『君よ太陽に語れ』(以上西日本新聞社)。日本GNH学会常任理事を務める。"
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"maegakinado": "◎「プロローグ 忘れられた人類学者」より\n\n「素敵な所ね」。「そうだね。とても面白そうだ。僕たちの調査にふさわしい村かもしれない」。\n 熊本県南部の球磨盆地にある〝熊本県で一番小さな村〟須恵村(二〇〇三年の合併で現在あさぎり町須恵)。自転車を駆ってやって来たのは、少し疲れた様子の若いアメリカ人夫妻だ。一九三五(昭和十)年九月下旬、今にも秋雨が落ちてきそうな夕曇りの空とは裏腹に、二人の表情は晴れ晴れとしていた。\n 村の南部を横断する球磨川の清流を見渡し、向こう岸に広がる肥沃な田んぼでは刈り入れを待つ稲穂が揺れている。\n 二十七歳の夫は、シカゴ大学で社会人類学を学ぶジョン・フィ・エンブリー。妻エラは二十六歳。二人はシカゴ大学から日本農村調査のために派遣され、八月中旬に日本に到着した。下旬から調査地を探し始めて約一カ月、各地の村を訪ね歩いた末のことだった。\n 二人はひと目で須恵村が気に入り、程なく調査地として正式に決定。十一月二日に覚井部落に居を構え、十二月で二歳になる娘クレアと三人の田舎暮らしがスタートする。村が欧米人を迎えたのは初めてのことだ。以来まる一年、若い二人は、村民に助けられながら、慣れない日本農村の暮らしに沿い、エネルギッシュに調査に奔走した。\n その果実として、[中略]ジョンは『Suye Mura : A Japanese Village〔日本の村 須恵村〕』(一九三九年)を刊行。「須恵」の名を世界に知らしめた。日本語が達者なエラ(後に再婚しエラ・ルーリィ・ウィズウェル)も、共著者ロバート・ジョン・スミス(コーネル大学教授、一九二七~二〇一六)の助けによって、困難な中にも奔放に生きる女性たちを描いた『The Women of Suye Mura〔須恵村の女たち〕』(一九八二年)を著した。二冊とも日本語に翻訳され、日本農村研究の名著として読み継がれている。\n 夫妻の本に魅せられた私は、二〇一一年十月から二〇一四年七月まで三年足らず、熊本県あさぎり町に住み、須恵を自転車で走り回った。取材や調査というより、ただ須恵の人々と語り合い、一緒に酒を飲み、暮らしぶりを教えてもらった。[中略]\n 本書は、八十年前に夫妻が経験した須恵と、八十年経った今の須恵の人々の暮らしを通じて、豊かになった今の日本が、その豊かさゆえに失い、また失いつつあるもの、あるいは幸いにも引き継がれているものをあぶり出し、書き残そうとする試みである。\n 私が須恵のことを知りたいと思った理由は幾つかある。まず何と言っても『須恵村』と『女たち』の面白さが第一だ。次に、昭和初期のムラの機能や構造を描いた『須恵村』が、戦前では外国人による唯一の人類学的な日本研究書として世界中から注目されたこと。三番目は、「調査者と住民のあいだにある種の親密さが保たれていた日本の村落はもはや存在しない」(『女たち』)ために、夫妻のようにありのままのムラの暮らしをつづったノートは二度と書かれないだろうこと。そして最後に、それらに対する評価が内外で非常に高いということがあった。[中略]\n それなのに、エンブリー夫妻や須恵に関する総合的な研究が、日本にも海外にもほとんど見当たらない。一九五〇~六〇年代の須恵村を調査した熊本商科大学(現熊本学園大)教授の牛島盛光(一九二一~二〇〇四)の仕事が唯一と言っていい。エンブリー夫妻の須恵滞在から八十年経った。当時を知る須恵の年寄りから話を聞くチャンスはもうすぐなくなる。私は、書き残すには今しかないと思った。",
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